論理的思考と戦略的思考

ある画期的な技術を開発した企業のお話です。

技術者出身の社長さんはその画期的な技術を業界1位の大企業に売り込んだ、と自慢げに語ってくれました。

その結果、高額な対価を得ることができたとも言っていました。このほかに、そのトップ企業が高額な報酬を用意するであろう確実な理由も挙げて、決断の理由を説明してくれました。まさに論理的思考の結果です。

その昔マイクロソフトはOSを普及させるためにバンドルソフト(OSを購入すると只で付いてくるアプリケーションソフト)に熱心でした。ただ、予算には限りがあるので、(と当時は考えられていた)ある選択を行いました。その選択とは、誰もが予想した業界NO.1の移動路線選択ソフトである「駅すぱあと」では無く、「乗り換え案内」を選んだのです。失礼ながら「乗り換え案内」も2位の立場を逆転させる可能性に懸けたとも言える決断を、当時の私はたいした意味も理解せずにいました。結果はまさしくウィンウィンの関係というか結果となりました。

これに関してはドラッカーの著作から、「新技術」を売り込むには業界一位ではなく、二位の企業に売り込むのが正しいとし、理由として経営戦略の観点から業界一位の企業はその立場を維持するために脅威となるであろう新技術を積極的に買収し、将来のライバルの芽を摘むことを選択するとした記述を引用した論評の本が10年以上後に出版されました。

つまり、トップ企業は新技術をいち早く市場に投入し、それを持って社会をより良くしたいと言うよりも、自社の地位の安泰を優先するというのです。だから新技術を開発したベンチャーが早期に市場での展開を望むなら報酬は少なくても、業界一番手以外の積極的な経営をする企業を選択すべきと言う戦略的な思考の提唱です。

さて、冒頭の社長さんは1年後に再会した際に、「製品化の話しは全く音沙汰無し」と寂しそうでした。私が本当に経営コンサルタントであったならば、社長さんの不機嫌を顧みず、セミナーの場で「業界一位ではなく二位の企業にすべきでしたね」と言わなくてはいけませんでした。

蛇足ではありますが、冒頭の社長さんは新技術を手放した後では為す術もないのでしょうか。

これもPC業界の例ではありますが、その昔IBMの為に日本語ワープロソフトを開発したジャストシステムは、それを(不確かな噂では100万円で)売り切り、その対価を元手に「一太郎」を開発したと言った例もあります。

つまり、売ると言っても「全て」では無く、自社での利用と開発継続の余地を残すこともできたと言うことです。残念なことに、冒頭の社長さんには、独自ではそれができない理由――製品化までのノウハウが無かった――があったのです。